Vol.1-2でお伝えした通り、kamokobuさんは会計データ×作業日報×AIで品種ごとの生産原価が見える「経営コックピット」を構築。AIとの壁打ちで仮説も検証し、データが経営判断を動かす体験をしてきた。
しかし、見えた数字を「どう読むか」は、結局自分一人だった。
もう一つの経営視点が欲しい ―― そう考えたkamokobuさんが次に挑んだのは、AIに「自社の記憶」を渡し、文脈を理解した参謀に育てること。ところが、丁寧に情報を詰め込むほど、AIは「ありきたりな答え」しか返さなくなる。3回の設計転換を経てたどり着いた答えは、またしてもシンプルだった。「事実だけ渡し、振る舞い方は渡さない」。その転換の全貌をお届けします。
📊 「AIに会社の説明書を渡す」仕組みの落とし穴 ― ルールを足すほどAIは普通になる
見える化の先に欲しくなった「自社を理解したAI」。そのために作った「自社の記憶をまとめたテキスト」=コンテキストバンク。しかし情報を詰め込むほど、逆にAIの力が死んでいった。多くのAI活用者が直面する構造的な壁と、その突破口。
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🧑🌾 農家プロフィール
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kamokobu (かもこぶ)
農業法人理事|岐阜県|会計事務所出身
kamokobuさん(@kamokobu0612)── 農業法人の理事として、現場管理と経営管理を担う。会計事務所出身という異色の経歴に加え、Googleデータアナリスト認定を取得。「数字で語れる農業経営」を追求し、非エンジニアながら約1年のAI協業を経て「経営コックピット」を独自に構築。現在は、AIを経営の参謀に育てるべく試行錯誤を続けながら、農業経営コンサルティング事業「ノウカノスウジ」の立ち上げを準備中。
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🎯 この記事でわかること
- 「見える化」の先に欲しくなった、自社の文脈を理解したAIとは
- AIに「自社の記憶」を渡すコンテキストバンクという仕組み
- ルールを足すほどAIが「普通」になる ―― 負のスパイラルの正体
- 「事実だけ渡し、振る舞い方は渡さない」―― v4.0への転換がもたらした変化
- 今日から試せる「AIへの情報の渡し方」のプロンプト例
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🔭 見える化の「その先」に何が欲しくなったか
前回までで、経営コックピットが完成し、品種別の生産原価も見えるようになりました。その先に何を感じましたか?
数字が見えるようになったこと自体は大きな前進でした。でも、見えた数字を「どう読むか」「次にどう動くか」は、結局自分一人で考えるしかない。Vol.2でお話しした品種別原価の分析も、AIに都度データを渡して壁打ちする形でした。
「都度の壁打ち」では何が足りなかったんですか?
毎回、AIに一から自社の事情を説明し直す必要があったんです。「うちはこういう法人で、こういう品種構成で、こういう課題がある」と。AIは毎回記憶がリセットされるので、前回の対話の文脈は何も覚えていない。
それは手間ですね。
はい。でもそれ以上に問題だったのは、毎回の説明の仕方によって、AIの回答の質がブレること。自社の文脈を常に理解した状態で、必要なときに必要な視点を返してくれる ―― そういう「外部脳」が欲しくなったんです。
「参謀」というイメージですか?
まさにそうです。やりたいことはシンプルで、当社の情報を一つの場所にストックしておき、必要なときに必要なものをピックアップして提案してくれる仕組みを作りたかった。
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読者の共感ポイント
AIとの壁打ちは便利だが、毎回「うちの事情」を説明し直すのは非効率。多くのAI活用者が「自社を理解したAI」を求める段階にたどり着く。
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📋 「自社の記憶」をAIに渡す ― コンテキストバンクとは
「コンテキストバンク」という仕組みを作ったそうですね。これはどういうものですか?
AIは、対話が終わるたびに記憶がリセットされます。だから、「うちの事情」を毎回伝え直す必要がある。それなら、自社の基本情報をテキストにまとめておいて、対話の最初に必ず読み込ませればいい。それがコンテキストバンクです。
具体的には何を書いているんですか?
法人の基本構造、品種ポートフォリオ、原価計算のルール、過去の経営判断の経緯 ―― いわば「AIに渡す自社の履歴書」です。
どうやって渡すんですか?
AIツールの「System Instructions(システム指示)」という欄 ―― 会話が始まる前にAIが必ず読む「初期設定欄」のようなものです ―― に、コンテキストバンクの全文をテキストで貼り付けます。すると、AIがセッションを開くたびに最初にこれを読み込んでから会話が始まる。
📋 コンテキストバンクの仕組み
📝
自社情報をテキスト化
法人構造・品種・原価ルール・過去の判断
→
💾
System Instructionsに貼付
AIが毎回最初に読む「初期設定欄」
→
🤖
AIが文脈を保持して対話
「うちの事情」を毎回説明し直さなくてよい
💡
比喩で言うと
新しく入った社員に「うちの会社の説明書」を渡すようなもの。ただしこの社員は翌日には全部忘れるので、毎朝渡し直す。コンテキストバンクは、その「毎朝渡す説明書」です。
対話の結果はどう反映するんですか?
やり取りの中で「この情報は次回以降も必要だ」と思ったら、コンテキストバンクのテキストを更新して保存します。次のセッションからはその更新版が読み込まれる。AIの記憶を、人間が手動で管理するイメージです。
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ポイント
コンテキストバンクは「AIに自社の記憶を持たせる仕組み」。毎回のリセット問題を、テキストベースの「常駐情報」で解決する。
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⚡ 詰めれば詰めるほど、AIが縛られる ― 負のスパイラル
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AI活用の中級者が陥る普遍的な落とし穴
この「負のスパイラル」は、AIを業務に組み込もうとする多くの実践者が陥る構造的な壁です。kamokobuさん個人の失敗談ではなく、「AIに詳細な指示を出すほど、かえって期待する成果が得られない」という普遍的な問題。共感する方も多いのではないでしょうか。
コンテキストバンクを作って、最初はうまくいきましたか?
コンテキストバンクの最初のバージョン(v1.0)で、コックピットのデータを渡して「この法人の経営者として、今最も注目すべきことは何か」と聞きました。すると ―― AIが感情的な修飾語を多用して、特定の部門の撤退を煽るような出力を返してきたんです。
暴走した。
はい。データの裏付けが薄いのに、断定的な結論を出してきた。これは危ないと思って、すぐにルールを追加しました。「こういう言い方はするな」「結論を出す前に必ずデータを示せ」「意思決定は複数人の合議だから勝手に決めるな」と。
ルールを足して、改善しましたか?
表面的にはしました。感情的な言い回しは消えた。でも、別の問題が出るたびにまた新しいルールを追加するんです。「この品種は廃止が決まっているから分析対象外にしろ」とか、「組織の文化的背景を考慮しろ」とか。
どんどんルールが増えていった。
v1.0からv3.2まで、失敗するたびにルールを足していった結果、コンテキストバンクは巨大な「行動制約ルール集」に肥大化しました。4層構造の情報に、行動制約、出力フォーマット、禁止事項、修正ログ ―― 全部入り。
それで参謀らしくなりましたか?
なりませんでした。AIは従順にはなったけど、ありきたりな回答しかしなくなった。「まあそうだよね」としか言えないような、表面的な分析ばかり返ってくる。
🔄 負のスパイラルの構造
①
AIが的外れな回答
「これはやるな」とルールを追加
↓
②
別の問題が発生
「こうしろ」とまたルールを追加
↓
③
ルールの山
AIがルールの範囲内でしか考えなくなる
↓
④
「参謀が使えない」
さらにルールを足す or 諦める
📌
比喩で言うと
300ページのマニュアルをぎっしり渡された新入社員が、「マニュアルに書いてあることしか言わなくなった」のと同じ。参謀に求めていたのは「意外な視点」や「見落としの指摘」なのに、設計が「予想通りの答え」を強制していた。
参謀に「自由に考えろ」と言いながら、実際は「このルール通りに考えろ」と言っていた。
まさにその矛盾です。しかもこれは私だけの問題ではなく、AIを業務に組み込もうとする多くの人が同じ壁にぶつかるんだと思います。AIが期待通りに動かないと、つい「ルールを足す」方向に行ってしまう。でもルールを足すほど、AIの推論の余地がなくなっていく。
🔑
Vol.3の核心
ルールを足すほどAIは「普通」になる。これはAI活用の中級者が陥る、最も見えにくい落とし穴。
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✨ 「事実だけ渡し、振る舞い方は渡さない」― v4.0への転換
どうやってこのスパイラルから抜け出したんですか?
ある時点で、コンテキストバンクそのものがAIの推論力を殺しているのではないかという仮説に至りました。層構造、行動制約、禁止事項 ―― 全部削ってみたらどうなるか。
大胆な判断ですね。
正直、怖かったです。v1.0の暴走があったから、ルールを外したらまた暴走するんじゃないかと。でも、試してみないと分からない。
v4.0では何を残したんですか?
残したのは、法人の客観的事実と原価計算の定義だけ。層構造、行動制約、出力フォーマット、禁止事項、修正ログ ―― 全部削除しました。
📊 v3.2 → v4.0 の設計転換
v3.2
マニュアル型
- 4層構造の情報
- 行動制約ルール
- 出力フォーマット指定
- 禁止事項リスト
- 修正ログ
😐
従順だが「ありきたり」
📚 300ページのマニュアル付き社員
→
v4.0
事実のみ型
- 法人の客観的事実
- 原価計算の定義
- 行動制約 → 削除
- 出力フォーマット → 削除
- 禁止事項 → 削除
🧠
自由で「鋭い」
🪪 名刺と会社案内だけの社員
v4.0で最初に試した結果は?
「この法人の経営者として、今最も注目すべきことは何か」―― v1.0と同じ問いを投げました。すると、AIがある部門のコスト構造の矛盾を、数値を積み上げて自力で指摘してきたんです。
v1.0でも似た結論に至ったことがあったんですよね?
はい。でもv1.0の時はデータの裏付けが薄い暴走でした。v4.0では、同じ結論でも到達の過程がまったく違う。数値に基づいた構造的な分析になっていた。
「同じ答え」でも、「到達の質」が違う。
まさにそうです。さらに決定的だったのがWhat-ifテスト(「もし〜だったら?」と仮定の質問をAIに投げる手法)です。「ある品種の面積が減った場合の影響は?」と聞いただけで、AIが自力で共通費の配賦(按分)―― 複数の品種で共有する経費をどう振り分けるかという問題 ―― の歪みに到達しました。プロンプトに「按分」というキーワードは入れていない。AIが推論で辿り着いたんです。
ルールで縛らなかったからこそ、AIが自由に推論できた。
そういうことです。事実だけ渡して、考え方はAIに委ねる。この設計原則が機能することを、身をもって確認できました。
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ポイント
「事実だけ渡し、振る舞い方は渡さない」―― AIへの情報の渡し方の本質は、足し算ではなく引き算にあった。
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📍 正直な現在地 ― まだ途中。でもそれでいい
v4.0で問題は解決しましたか?
方向性は見えました。でも、まだ道半ばです。
どんな課題が残っていますか?
まず、売上データがまだコックピットに統合できていないので、コスト構造しか見えない。品種別の利益構造を把握するには、売上側のデータ統合が最優先です。
それから、データの投入が毎回コピー&ペーストの手作業。AIに渡すデータの選び方も、結局は自分の判断に依存している。自分が選んだデータでしかAIが発想できないという制限がある。
v4.0で自由になった分、新しいリスクもある?
ルールを削ったことで、AIの推論は自由になりましたが、過去にあった暴走パターンが再発する可能性はゼロではありません。対話の中でその場で修正する ―― その運用力が経営者側に求められます。内容を詰めれば詰めるほどAIが縛られ、緩めれば暴走する。このバランスをまだ探っているのが正直な現在地です。
「完成」はあるんですか?
最近になって思うのは、「完成しないことが当たり前」なんだということ。AIとの付き合い方は、環境が変わればまた変わる。ツールも進化する。だから終わりはない。でも、それ自体が経営力を上げるプロセスになっていると実感しています。
📍 Vol.3の到達地点
- ✅
「事実だけ渡す」設計原則が機能することを確認
- 🔧
売上データの統合(最優先課題)
- 🔧
データ投入の手作業からの脱却
- 🔧
自由と制御のバランスの模索
- 💡
「完成しないことが当たり前」という心構え
📊
📝 まとめ:Vol.3で見えたこと
| 発見 |
内容 |
意味 |
| 「外部脳」への欲求 |
見える化の先に、自社文脈を常に理解したAIが欲しくなった |
「見える化」はゴールではなくスタート |
| コンテキストバンク |
AIに「自社の記憶」を渡す仕組みを設計 |
毎回のリセット問題をテキストベースで解決 |
| 負のスパイラル |
ルールを足すほどAIが「普通」になった |
AI活用の中級者が陥る普遍的な落とし穴 |
| v4.0への転換 |
事実だけ渡し、振る舞い方は渡さない |
AIへの情報の渡し方は「引き算」が本質 |
| 正直な現在地 |
まだ途中。でも完成しないことが当たり前 |
AIとの付き合いは終わらない。それ自体がプロセス |
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⏱ 5分で試せるアクション
今日のチャレンジ:AIへの情報の渡し方を見直してみよう
kamokobuさんの発見は、「AIにルールを足すほど、AIが普通になる」こと。あなたのAI活用でも、渡す情報を引き算してみましょう。
プロンプト①:「自社の履歴書」を作ってみる
以下のテンプレートを埋めて、AIに最初に読み込ませる
「自社の記憶」を作ってみましょう。【法人の基本情報】
・所在地:
・主な事業:
・主な作物/商品:
・従業員数:【現在の主要課題】
・課題1:
・課題2:【経営判断の前提条件】
・意思決定の体制:
・特に重視していること:ポイント:振る舞い方の指示(「〜するな」「〜の形式で
答えろ」)は書かない。事実だけ。
プロンプト②:AIに「ルールなし」で聞いてみる
上で作った「自社の履歴書」をAIに読み込ませた上で、
こう聞いてみましょう。この情報を踏まえて、この法人の経営者として
今最も注目すべきことは何ですか?
根拠となるデータや論理も示してください。
最後に「まだ検討されていない論点」があれば
提示してください。ポイント:出力フォーマットや禁止事項はあえて指定しない。
AIがどこまで自力で考えるか、試してみてください。
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Vol.4:もう一つの視座 ― 「何も知らないAI」が経営の盲点を破った日
v4.0で「事実だけ渡す」に転換し、AIの推論力は蘇った。しかし、ふとした経験がkamokobuさんに新たな疑問を突きつけます ―― そもそも「渡している事実」自体が、AIの思考を歪めていないか?
コンテキストバンクに書かれた「当社はこういう法人だ」という前提情報が、AIの出力を特定の方向に引き寄せているとしたら? そして、あえて「何も知らないAI」にも同じ問いを投げたとき、見えていなかった選択肢が浮かび上がる。「知っているAI」と「何も知らないAI」を使い分ける ―― kamokobuさんが到達したデュアル・コンテキスト設計の全貌を、次回はお届けします。
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📂 『kamokobuさんの経営コックピット』記事一覧
- Vol.4
もう一つの視座 ― 「何も知らないAI」が経営の盲点を破った日
近日公開
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※ この記事はAIツール(ChatGPT・Claude等)を活用して作成し、編集部が内容を確認・編集しています。正確性には十分配慮していますが、最新情報は公式サイト等でご確認ください。