「外注時代から内製化時代へ」― AIが変える農業の未来
〜 3年間AIと向き合い続けた非エンジニア農家が見据える、内製化・複業・データ蓄積の先にある農業のかたち 〜
Vol.1では100日チャレンジで「AIで何ができるか」を体に染み込ませた。Vol.2では月額0円の温度モニタリングシステムをDIYで構築し、Vol.3ではAirtable × LINEで100haの農場データをチームで共有する仕組みへとスケールさせた。
シリーズ最終回は、冨安さんが見据える農業の未来です。
「1年前は使えるものが作れなかった」AIが、今では「人間がボトルネック」と言わせるほどに進化した。OpenAIとの対話で感じたこと、データ蓄積の先にある自動化の可能性、そして高齢化が進む日本の農業における「内製化」と「複業」という2つのキーワード。
非エンジニア農家が3年間AIと向き合い続けて見えてきた景色と、これからAIを始める農家へのメッセージをお届けします。
今回のテーマ(最終回)
🌱 「外注時代から内製化時代へ」― AIが変える農業の未来
「システムは外注するもの」。その常識が崩れ始めています。AIという”超優秀なエンジニア”を手元に置いた農家が、自分の現場に合った仕組みを自分で作る時代。冨安さんの3年間の軌跡が示す、農業の新しい地平線です。
🧑🌾 農家プロフィール

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 農場名 | WFPダチョウファーム |
| 所在地 | 北海道沙流郡平取町・勇払郡むかわ町 |
| 経営規模 | 約100ha・年商約1億円 |
| 栽培品目 | ブロッコリー、大豆、カボチャ、ネギ ほか |
| 役職 | 農業法人役員 |
| SNS | X(@tomiyasu16)、note、TikTok |
🔄 AIの進化:「使えなかった」から「人間がボトルネック」へ
3年間でAIは「会話相手」から「自律的にシステムを組み上げるパートナー」へ。進化のスピードを本人が振り返ります。
冨安さんがAIを使い始めて約3年。その間のAIの進化を、本人はこう振り返ります。
💬
「去年は、試行錯誤に時間がかかって、現場で使えるレベルのものは作れなかったんです。Cursorを使ったり、ターミナルからPCを操作する方法を少しずつ覚えていった段階で」
それが今年に入って一変しました。
💬
「AIが自律的に自走して、ある程度作り上げてくれるようになった。現場で運用できるシステムが作れるレベルに、やっとなってきた」
Vol.2で紹介した温度モニタリングシステム、Vol.3のAirtable × LINE連携。どちらも今のAIだからこそ実現できた仕組みです。1年前のAIでは、エラーを繰り返して何十回もやりとりし、できるものも微妙だった。
そして、冨安さんから飛び出したのがこの言葉です。
1年前
- 試行錯誤に時間がかかる
- エラーを繰り返し何十回もやりとり
- できるものも「微妙」
- 現場で使えるレベルに届かなかった
現在
- AIが自律的に自走してくれる
- プログラムは“一瞬”で書ける
- 現場で運用できるシステムが作れる
- 人間がボトルネックになっている
🔥
「プログラム自体は”一瞬”で書けるんです。時間がかかるのは、部品を選んだり、配線を組んだりする”人間側”の作業。人間がボトルネックになっている感がある」
コードを書く工程はAIが劇的に短縮した。開発のボトルネックは「人間が何を作るか考え、物理的に組み立てる部分」に移行したのです。
農業にたとえるなら、種まき機が超高速になったのに、「どこにどの品種をまくか」を決める人間の判断が追いつかないような状態。道具の進化が、人間の思考力と発想力を試す時代が来ています。

📸 3年間のAI進化 ― 1年前は「使えなかった」AIが、今では「人間がボトルネック」に
🏗️ 内製化の哲学:「自分で組み立てる」から始まる自由
外注するのではなく、自分で組み立てる。Vol.1〜3を貫く冨安さんの一貫した思想とは。
Vol.1〜3を通じて、冨安さんの実践に一貫しているのは「内製化」という思想です。
既存の農業アプリを契約する(=外注する)のではなく、自分で組み立てる。なぜか。
💬
「どんなに良いデバイスでも、そのアプリの中でしかデータが見られないなら、チームに浸透させるのは難しい。内製だからこそ、LINEとの連携もMCP連携もAI連携もできる」
🤝 OpenAIとの対話:農業×AIの最前線に立つ農家
100日チャレンジの大塚亜美さんの推薦がきっかけで実現した、OpenAIとの直接対話。
冨安さんには、一般の農家にはない特別な経験があります。OpenAIの方と直接対話する機会を得たのです。
きっかけは、Vol.1で紹介した100日チャレンジの大塚亜美さん。大塚さんがOpenAI側に冨安さんを推薦してくれたことで実現しました。レポートの共有などを通じた協力関係が生まれ、冨安さんは現在ChatGPT Proプランを活用しながら、農業現場でのAI活用を実践しています。
このエピソードが示すのは、現場で手を動かしている人の実践が、AI開発側にとっても貴重なフィードバックになるということです。
📝
AIの「正解の使い方」は、まだ誰も確立していません。各専門領域でどう活用するかは開発側も模索中であり、だからこそ冨安さんのように現場で試行錯誤している人の知見が貴重です。Vol.1〜3で見せてきた実践は、農業×AIの「使い方の発明」そのものと言えるでしょう。
📊 データの土台:「数値化してログを残す」がAI活用の出発点
Vol.2の温度データ、Vol.3の作業記録。一貫してやってきたのは「データを溜める仕組み」を作ること。
Vol.2では温度データ、Vol.3では作業記録・タスク・圃場情報。冨安さんが一貫してやってきたのは、「データを数値化してログに残す仕組み」を作ることです。
なぜデータが大事なのか。冨安さんはこう語ります。
💬
「画像と状況をセットで蓄積していけば、”こういうときはこうする”が溜まっていく。そうなると、人間が考える手間が減る。人間が省力化されるんです」
まずは数値化してログに残す
データとして蓄積される
AIが意思決定を支援
こうしたデータが蓄積されていけば、やがてAIによる意思決定支援が現実味を帯びてきます。たとえば、「今朝の温度パターンは〇月〇日と似ています。あのときはビニールの隙間チェックで解決しました」――そんな提案をAIがしてくれる未来も、データの土台があってこそ実現します。
※上記はデータ蓄積の先にある活用イメージです
🔥
「まずはデータを溜める仕組みを作る。AIが賢くなるのは、その先の話」
順序を間違えないこと。AIツールに飛びつく前に、データの土台を作る。これが冨安さんの3年間の実践から導き出された、もっとも実用的な教訓です。
🌾 農業の未来:高齢化・大規模化・そして複業の時代
冨安さんの視線は、自分の農場を超えて、日本の農業全体の未来に向いています。
💬
「高齢化で辞めていく農家が多い。少ない農家に面積が集中していく。省力化とコンピューター活用は、もう必須なんです」
北海道の農業はすでに大規模化が進んでいます。100haの冨安さんの農場でも、人手不足は切実な問題。Vol.2の温度モニタリングやVol.3のLINE連携は、「便利だから」ではなく「人が足りないから」という切迫した背景があるのです。
そして冨安さんは、もう一つの大きな変化を予感しています。
💬
「農業だけやっている時代じゃなくなると思うんです。複数の職業を持つパラレルワークの時代になる」
AIで農作業が省力化されれば、農家に余白が生まれる。その余白で、別の仕事を持つ。あるいは冨安さんのように、AIツールの開発や発信活動を農業と並行して行う。
実際に冨安さんは、100haの農場経営をしながら、温度モニタリングシステムを作り、自動巻き上げ機を開発し、noteやX、TikTokで発信し続けています。農家であり、エンジニアであり、発信者でもある。
🔥
「省力化だったり、コンピューターができることはコンピューターがやる。そう考えないと、この先の農業は回していけない」

📸 広がる北海道の圃場 ― 「100ha」「大規模化」のスケール感
💡 これからAIを始める農家へ:冨安さんからの5つのアドバイス
最後に、3年間の実践から導き出された、これからAIを始める農家へのメッセージ。
まずは遊ぶ
「最初からビジネスに使おうとしなくていい。何ができるか、何ができないかを遊びながら理解することが大事」
Vol.1の100日チャレンジも、農業に限らず思いつくものを手当たり次第に作った。「遊び」の中で感覚が磨かれるのです。
根気を持つ
「最初から一発でうまく動くことはない。根気がいります」
AIは万能ではない。間違えるし、的外れなことも言う。それでも繰り返すうちに、「使い方のコツ」が体に染み込む。
何ができて、何ができないかを知る
「無茶振りしすぎるとできない。でも、現実的な範囲なら結構できる。その境界線を知ることが大事」
AIの得意・不得意を理解する。Vol.2で紹介した「複数AIに聞いて比較検証する」手法は、この境界線を見極める実践的な方法です。
発想力を大切にする
「超優秀なエンジニアが手元に一人いるような感覚。でも、指示ができる人間でないと使いこなせない。”こんなのできたらいいな”という発想がないと始まらない」
AIはあくまで「実行する力」。「何を作りたいか」を考えるのは人間の仕事です。冨安さんがシミュレーションゲーム好きだったことは偶然ではありません。思い描いたものを形にしていくプロセスを楽しめるかどうかが、継続の鍵です。
SNSでアウトプットする
「SNSで公開しながらやっていたから続けられた。宣言したからにはやるしかない、質は低くてもとりあえずやろう」
Vol.1で触れた100日チャレンジの継続法。完璧を目指さず、まず出す。そのサイクルが、学びと実践の好循環を生みます。
📝 シリーズ総まとめ:冨安さんの3年間が示すもの
4回にわたってお届けしてきた『とみやすさんのAI実践録』。最後に、シリーズ全体を振り返ります。
個人の学び → 個人のDIY → チームで使う仕組み → 産業全体の未来。
冨安さんの実践は、一人の農家の挑戦を超えて、日本の農業がAIとどう向き合うかのモデルケースになっています。
冨安さんの実践から見えた3つの原則
冨安さんはインタビューの最後に、こう語りました。
🌾
「システムは外注していた時代から、内製化の時代が来ている。それを体現していきたい」
北海道の100haの農場から、一人の非エンジニア農家が、AIと一緒に未来を作っています。
高額な農業アプリを契約しなくても、月額0円でスマート農業ができる。パソコンに向かわなくても、畑からスマホで農場を管理できる。プログラミングの経験がなくても、AIに聞けばコードが書ける。
その考え方が、これからAIを始めるすべての農家に届くことを願って。
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📸 シリーズの締めくくり ― 北海道の農場から、AIと一緒に未来を作るチーム
- Vol.1
非エンジニア農家がコードを書く時代 ― 100日チャレンジ完走へ
公開中 - Vol.2
月額0円のスマート農業 ― ビニールハウス温度モニタリングをDIYで実現
公開中 - Vol.3
LINEから全部できる ― 100haの農場データをチームで共有する仕組み
公開中 - Vol.4
外注時代から内製化時代へ ― AIが変える農業の未来
今回
📎
- インタビュー:冨安寛樹さんインタビュー(2026/2/19実施・Zoom)― 全編を通じた主要ソース
- 書籍:大塚あみ『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BP)
💬読者の声をお聞かせください
シリーズ全4回をお読みいただきありがとうございます。ご感想や「こんなAI活用を知りたい」というリクエストをお待ちしています。

