石垣島は沖縄本島から南西に約400km、台湾までは270kmほどの距離に位置する東シナ海に浮かぶ人口約50,000人の島です。亜熱帯気候の石垣島は、陸は沖縄県最高峰の於茂登岳とその麓に生息する特別天然記念物のカンムリワシや天然記念物のセマルハコガメが生息します。於茂登岳から流れる川の河口部の干潟には亜熱帯特有の動植物が分布し渡り鳥の生息地になるマングローブ林、海には360種以上のサンゴが生息する日本最大のサンゴ礁海域を有しています。
年間平均気温は24度で、年によってはクリスマスや正月も半袖で過ごすこともあります。
石垣島のほぼ中央、於茂登岳の麓に位置する嵩田(たけだ)地区 。 約70世帯、150人程度の小さな集落です。マンゴー農家やパイン農家が多く、マンゴー、パイン栽培の発祥とされ、高い栽培技術を誇っています。農園の周辺にはカンムリワシやセマルハコガメなど様々な生物が生息しています。
ゆんたく会と嵩田への想いThoughts on the Yuntaku Kai
嵩田地区では、約30年前に結成された「ゆんたく会」というコミュニティーがあります。(ゆんたくとは沖縄方言でおしゃべりという意味)ゆんたく会では月に一度、地域の方々や子どもたちが集まって宴会をします。各家庭で料理を一品持ち寄り、父親たちはお酒を飲みながら、母親たちは料理の味付けの話や世間話、子供たちは遊びまわり、それぞれに楽しみます。
ゆんたく会を通し、幼少期から地域の方と交流する機会がたくさんありました。たくさんの大人から日々の仕事のやりがいや苦労話、嵩田の開拓の歴史を聞きました。部活動などで活躍すると地域の人からたくさん声をかけてもらいました。お祝いの時には家にたくさんの地域の方が来てくれ祝福してくれました。夢を語る大人のかっこいい姿を身近に見て、いつからか、「嵩田に帰ってきて、嵩田で子育てがしたい」と思うようになっていました。
私は26歳の時に石垣島に帰り父に教わりながら嵩田で農業を始めました。その時には数名の先輩方が後継者として帰ってきていたので、私も嵩田に帰るのがごく自然のことに思えたのを覚えています。また、私の後輩たちも次々と帰ってきました。全国的に農村の過疎化が進む中で嵩田にでは20代〜30代の後継者が活き活きと農業を営んでいることの素晴らしさに、石垣島を離れることで気がつきました。農業を営みながら、地域の先人達が私たちにしてくれたように、自分が嵩田のためにできること、地域の子供達のためにできること、嵩田の発展のためにできることは何だろうと考えるようになりました。そんな中、私が小さい頃に、ゆんたく会で地域の先人達が夢を語り、「それぞれのやってみたい」を図面にしていたことを記憶の片隅から思い出しました。両親や地域の方に聞いたところ、持ち主が判明し、実に約20年ぶりにその図面を開きました。
ゆんたく会から生まれた「嵩田グリーンツーリズム構想」Green Tourism Concept
ゆんたく会が結成された頃に作成された、「嵩田グリーンツーリズム構想」には、ゆんたく会のメンバーの「こんなことやってみたい」が図面化されています。嵩田グリーンツーリズム構想では、個々の経営のやりたいことを図面に起こしたこともさることながら、さらに具体的なビジョンが文章化されていることをしり。その内容の奥深さにさらに感動を覚えました。嵩田グリーンツーリズム構想では、主に下記のようなことが記されており、近年言われているグリーンツーリズムや持続可能な社会に通じることが当時から考えられていました。
・食の安全、地球温暖化、資源の浪費に配慮した省エネ、省資源の農法を皆であみだす。
・繁忙期の労力の貸し借りできる労力バンク
・個々の経営の作目で加工することで商品価値の高まるものはそれを集め加工処理できるようにします。
但し地域の特性を出すのが目的で儲け優先の規模拡大は現に慎みます。
・特産品となるような新規品目の試作研究導入の推進
・生産物の販売所と加工所を設置
・お客様の休憩所の設置。ゆんたく会の手料理や飲み物を提供するデスティネーションレストラン
・若者の後継者支援と高齢者の離農問題の解決
・子どもたちが大人への準備または予備軍ではなく、貴重な人生の一時期となるよう自主と責任の持てる環境の整備。
・部落行事や販促イベントなど、大人との共同運営。
・高齢者が住み慣れた地域で健康で域外のある余生が過ごせるよう高齢者ホームの設置。
・地域を知ることから始める。地形や動植物、歴史や文化など
・減少する危機のある生態系の再生と活用
全ての事業は地域住民のコントロールの範囲を超えないようにします
・地域の生産品の紹介・社会問題に対する意見などについて情報発信する
・集客のためのアトラクション設置。マルシェなどの販促イベント
・地域資源のツーリズムとしての活用
・グリーンツーリズム・エコツーリズムの確立。アグリツーリズム・パーマカルチャ、ツーリズムの宿泊施設の整備。
農業に留まらず、地域社会や地域の未来に対しても目を向け具体的な計画が記されています。地域の強みを活かし「相互が支え合う社会」と、自然環境や子どもや高齢者にも配慮した「持続可能な社会」の実現を目指すことが細かな計画から見えてきます。農業という孤独になりがちな業種において、個々の経営が孤独にならないような取り組みが「ゆんたく会」では育まれていました。