AIはなぜ規格外を見逃したのか? 3時間の格闘でわかった「まだAIに任せられないこと」
〜 12個を14個と数え、新聞紙の文字を実と誤認する。失敗の中身を全部お見せします 〜
前回のおさらい
第2回:海外ではスマホ選果が始まっている——無料AIで再現できるか試してみたを読む →
第2回では、スマホ+Gemini 3.6 Flashで「正常/明らかな規格外」の二分類を検証しました。結果は全体正答率75〜80%。ところが、現場でいちばん見つけたい規格外品の検出率は27〜56%。この大きなギャップの正体を、最終回で解剖します。
今回のテーマ(最終回)
失敗の中身を全部見せる——AIが間違える条件と、いま整えるべきもの
位置認識が崩れた3時間、AIが間違えた3つの条件、そして「転がしたら当たった」という発見。うまくいかなかった検証から持ち帰れたものを、正直にまとめます。
🎯 この記事でわかること
- 置き方を変えた瞬間にAIの位置認識が崩れた、3時間の一部始終
- AIが規格外を見逃した3つの条件(死角/重なりと影/ブルームのムラ)
- 今回の条件で「まだAIに任せられない」と判断したこと
- これから試す人が最初にそろえるべき4条件とセキュリティ注意
⚠️
検証条件の注意(第2回と共通)
本記事の数値は、各条件40個・見本や指示の調整過程を含む小規模な試行の参考値です。見本用と評価用の果実を完全に分離した独立精度評価ではありません。特定のツールやモデルの性能を評価するものではなく、この撮影条件・この使い方での結果としてお読みください。
1) 数字のギャップ:8割当たっているのに、現場が楽にならない
75〜80%
合否がひととおり合っていた割合
27〜56%
現場で一番大事な「見つけてほしい実」の検出率
この差が、今回の一番の論点でしたね。

yamon
はい。規格外を見逃したら、結局は人が全部見ることになります。時短効果は今回確認できていません。
ただ、原因を追いかけていくと「AIの目が悪い」という話ではなかった。もっと手前の、置き方や撮り方の問題が大きかったんです。
2) 3時間の格闘:バラバラに置いた瞬間、位置認識が崩壊した
STEP 1
整列させて置くと、そこそこ動いた
選果机の上にプルーンを等間隔で並べ、真上から撮影。位置座標もほぼ合い、「これはいけるかも」と思ったところまでは順調でした。
STEP 2
実際の現場に近づけて、バラバラに置いてみた
選果台の上は本来こんなに整っていません。実際に近い「バラバラ置き」に変えた瞬間、位置認識そのものが崩れました。
STEP 3
12個を14個と数える、新聞紙の文字を実と誤認する
重なった実をひとつと数えたり、逆に影を別の実として数えたり。下に敷いた新聞紙の文字や影をプルーンだと誤認するケースまで出てきました。判定以前に「どこに何個あるか」が合わない状態です。
STEP 4
枠を一つずつ指示して修正——約3時間
「この枠は違う」「ここにもう1個ある」と一つずつ指示して修正。約3時間かけて、ようやくその配置だけは全枠が一致しました。
STEP 5
カメラ位置を変えたら、またズレた
3時間かけて合わせた状態も、カメラの位置を少し変えるとまたズレる。「その場限りの調整」にしかならないことがはっきりしました。


3時間……。そのあいだ、何を思っていましたか。

yamon
正直「これ、自分で選果したほうが早いな」と何度も思いました(笑)。
でも、その3時間でAIがどこで間違えるのかが具体的にわかったのは収穫でした。次にやるときは、ここを最初から潰しておけばいい、と。
3) AIが間違えた3つの条件
01
死角
真上から1方向だけ撮ると、実の裏側や底面は写りません。割れや傷がそこにあれば、そもそも判定材料に入らない。
02
重なりと影
実が重なると輪郭が分からなくなり、個数の数え方から崩れる。影を実と誤認したり、逆に実を影と見なしたりも。
03
ブルームのムラ
プルーン表面の白い粉(ブルーム)の付き方にムラがあると、光の反射で傷のように見えたり、逆に傷が隠れて見えたりする。
💡 この検証いちばんの発見
AIが見逃した規格外品を、手で転がして角度を変えてから撮り直したら、正しく「規格外」と判定されたのです。つまり——AIの目が悪いのではなく、単眼カメラでは見えない面がある。精度の問題ではなく、撮り方の問題でした。
「見えていなかっただけ」だったと。

yamon
そうなんです。人は選果のとき、無意識に実を手で転がして全面を見ています。カメラ1台・1方向だと、それがまるごと抜け落ちる。
「AIの精度を上げる」より先に、「AIに見える状態をつくる」ほうが先だった——それが今回いちばんの学びでした。
4) 技術メモ:Pythonでの半自動判定について
🛠
技術メモ
中級向け
- Python+Gemini APIでの半自動判定:画像の送信と判定結果の記録をスクリプト側でまとめて処理。手動より数をこなせる一方、規格外の検出率は27.3%と最も低い結果でした。
- 利用上限:無料枠にはプロジェクト単位のリクエスト上限があり、連続して試すとすぐに頭打ちになります。試行の計画は上限を前提に立てておくのが安全です。
- 費用(参考値):今回の試行では59回の判定で約220円。あくまで今回の条件・時点での参考値で、モデルや画像サイズ、料金体系によって変動します。
※本連載は「試してみた」レベルの記録です。スクリプトの詳細な実装・チューニングは扱っていません。
5) 今回の条件で「まだAIに任せられない」と判断したこと
✕
人の全数確認を減らすこと
規格外の見逃しが多く、結局すべて人が見ることになる。時短効果は今回確認できませんでした。
✕
条件が変わっても同じように使うこと
配置や撮影条件が変われば認識が崩れる。ある場面で合わせ込んでも、そのまま横展開はできません。
✕
1方向のカメラで全面を見ること
単眼カメラの死角は、指示の工夫では埋められません。これは原理的な限界です。
逆に、うまくいかなかったからこそ得たものは?

yamon
2つあります。ひとつは第1回でやった「規格外基準の言語化」。これはAIに関係なく、家族やアルバイトとの共有ツールとしてそのまま役に立ちました。
もうひとつは、AIが失敗する条件が具体的にわかったこと。「なんとなくダメだった」ではなく、死角・重なり・ブルームと名指しできるようになりました。
6) これから試す人へ:最初にそろえる4条件
✅ 精度を追う前に、条件を整える
- 無地の背景を敷く:新聞紙やカゴの模様は誤認のもと。単色の紙や布1枚で変わります
- カメラと照明を固定する:高さ・角度・明るさが毎回変わると、結果も毎回変わります
- 複数の角度から撮る:1方向では死角が残る。転がす・裏返すをセットにする
- 人が先に正解を決めておく:AIの答えを見てから決めると、正誤の記録になりません
🔐
セキュリティ・プライバシーの注意
- 写真に人物・住所・伝票・車のナンバーが写り込まないようにする
- APIキーは共有しない。スクリプトや画面共有に貼り付けたままにしない
- 写真のEXIF(位置情報)に注意。公開・共有する前に削除する
まとめ
- バラバラ配置にした瞬間に位置認識が崩れ、枠合わせだけで約3時間。しかもカメラ位置を変えるとまたズレた
- AIが間違えた条件は「死角」「重なりと影」「ブルームのムラ」の3つ
- 見逃した実も、転がして角度を変えたら正しく判定できた=見えていなかっただけ
- 今回の条件では、人の全数確認は減らせず、時短効果は確認できなかった
- これから試すなら「無地背景/カメラ・照明の固定/複数角度/人が先に正解を決める」の4条件から
⏱
5分で試せるアクション:「死角」を体感するミニ実験
第2回のプロンプトでAIに判定させたあと、同じ果実を手で転がして角度を変え、もう一度撮って判定させてみてください。判定が変わったら、それがそのカメラ位置の死角です。AIの精度より先に整えるべきものが、5分で体感できます。
先ほどと同じ果実を、角度を変えて撮影した写真です。 1. この写真での判定(正常/明らかな規格外/保留) 2. 前の写真の判定と変わったかどうか 3. 変わった場合、前の写真では見えていなかった箇所はどこか 上の3点を、それぞれ1〜2行で答えてください。
ポイント:判定が変わった=AIが間違えたのではなく、見えていなかった可能性が高い、と考えてみてください。
🏁 シリーズ総括
精度より先に、現場の条件を整える必要があった
1日300kgの選果を前に立てた「AIに任せれば速くなるのか」という問い。3回にわたる検証の答えは、正直に言えば「今回の条件では、まだ速くならなかった」です。ただし、失敗の理由は具体的に言葉にできました。次はAIに見える状態をつくるところからやり直します。
次の検証(検討中):Roboflow+YOLOでの再挑戦。実施は、みなさまからの反響を見て判断します。ぜひ下の「読者の声」からご意見をお寄せください。
📚 参考情報
📮
読者の声をお聞かせください
全3回の連載はいかがでしたか?いただいた声は、第2弾検証(Roboflow+YOLO)の実施判断や今後の記事づくりに活用します。
📂 プルーンAI選果 検証記(全3回)
- Vol.11日300kgの選果が止まらない! 北海道のプルーン農園でインターンが見た「選果の壁」✅ 公開済み
- Vol.2海外ではスマホ選果が始まっている! ならば、無料AIで再現できるか試してみた✅ 公開済み
- Vol.3
AIはなぜ規格外を見逃したのか? 3時間の格闘でわかった「まだAIに任せられないこと」
📍 今回

