🍅 全国金賞トマト農家「ひろしま農園」シリーズ(全13回)
🌱 シーズン1(全6回・完結)
- 【第1弾】大分県宇佐市「ひろしま農園」紹介編 ── 全国金賞トマト農家の、 知られざる"アナログ経営"
- 【第2弾】大分県宇佐市「ひろしま農園」試行錯誤編 ── デジタルに縁がなかった夫婦が、 Apple WatchとAIで走り出した日
- 【第3弾】大分県宇佐市「ひろしま農園」実装編 ── 超アナログ夫婦が、 IoTセンサーのセットアップをやり遂げた日
- 【第4弾】大分県宇佐市「ひろしま農園」始動編──スプレッドシートに刻まれた最初のデータ
- 【第5弾】大分県宇佐市「ひろしま農園」自走編──「Wi-Fiの仕組みも知らなかった」農家が、 AIに聞いて自分で問題を解決した日
- 【第6弾】大分県宇佐市「ひろしま農園」発見編──同じ数字が並ぶ違和感から始まった、"信頼できるデータづくり"への新たな一歩
🍅 シーズン2(全7回)
- 【第7弾】銅賞の通知が届いた翌朝、ひろしま農園が挑戦したのは"直売所用POP制作" ← 今ここ
- 【第8弾】5つのAIを渡り歩いた末、ひろしま農園に残った一行
- 【第9弾】素朴な原稿が、デザイナーの机に届くまで
- 【第10弾】下葉が黄色い、これは何の不調? AIの4候補と、農家の現場感の答え合わせ
- 【第11弾】正解を1つに決めない! 同じ問いを3つのAIに投げて見えたもの
- 【第12弾】動画で"農業マニュアル"がつくれる! 農家の勘と経験を、どうやって引き継ぐか 6/15公開予定
- 【第13弾】"いつでも動ける"を、AIと準備しておく! 雇用契約書のひな型から、季節POPの引き出しまで 6/17公開予定
銅賞の通知が届いた翌朝、ひろしま農園が挑戦したのは“直売所用POP制作”
── シーズン2 販売①入門編「事実を、お客様に届く言葉に翻訳する」
ひろしま農園特集では、27年フルーツトマトを作り続けてきたひろしま農園の素顔を紹介するところから始まり、ハウスの温度をAIと一緒に”信じられる数字”に育てていく旅を、6回にわたって書いてきた。連載もここでひと区切りかな。そう思っていた、その矢先のことだった。
2026年4月23日、ひろしま農園から1通の報告が届いた。「2026年全国トマト選手権、ミディアム部門 銅賞をいただきました」。
2024年の金賞からわずか2年。再び全国の舞台で評価された。だが、本当に驚いたのはその翌朝の動きだった。お祝いムードの中で、ひろしま農園が真っ先にAIに相談しに行ったのは──直売所に置く”POPの言葉”だった。
シーズン2は、ひろしま農園が「あ、これなら自分たちにもできそう」と手応えを掴んだ話を、ひとつずつ拾っていく連載だ。今回のVol.7で紹介するのは、銅賞受賞をきっかけに作ったPOPが、実際に直売所の棚に並んだ事例。農業の現場でAI活用に挑んでみたい方の、ヒントのひとつになれば嬉しい。
🏆 1. 銅賞受賞のお知らせ
4月23日、ひろしま農園から「全国トマト選手権、ミディアム部門 銅賞」の受賞報告が届いた。2024年の金賞、2026年の銅賞。「全国の舞台で評価される」ということが、栽培者にとってどれほど稀有なことかは、味の世界をかじったことがある人なら誰でもわかるはずだ。

翌朝、ひろしま農園からのメッセージが続いた。受賞をどうお客様に伝えたらよいか、直売所に置く言葉が頭からうまく出てこない、これまでPOPに頼った経験がほとんどない──。整理すると、「受賞の事実を、お客様に届く言葉に変換する」という、栽培の外側の宿題が浮かび上がっていた。
受賞や評価の事実は、「言葉に翻訳されて初めて」お客様に届く。賞状を貼るだけでは、その重みは伝わりきらない。“事実”と”伝わる言葉”は別物── これは農業に限らず、職人仕事に共通する壁だと思う。
📝 2. ひろしま農園は過去にPOP制作に挑戦していた
ここに至るまでに、ひろしま農園は過去にPOP制作に挑んでいた。農業AI通信の参考記事「同じ野菜なのに、あの人のだけ売れる」を読んだことがきっかけだった。記事は、同じ商品でも”言葉”の差で売れ方が変わるという話。これを読んだひろしま農園は、直売所用のPOPを自分の言葉で試作してみている。
そのときの感触はこうだ。POPは、たくさんの「これを書きたい」が頭の中で渋滞してしまう。価格・品種・栽培へのこだわり・食べ方・お客様への感謝── どれも大事で、どれも入れたくて、結局どれも薄まってしまう。直売所に立ったことがある農家なら誰もが一度は経験する詰まりだ。
そしてもうひとつ、見過ごせない”見えないハードル”があった。「自分の書いた文言が、お客様に失礼に当たらないか」という不安だ。直売所POPは棚に立てかける一行であると同時に、対面販売の延長線にある”声がけ”でもある。書きたいことが多すぎるのではなく、書いてはいけない言葉が怖い── これが、4月のPOP挑戦が「次の一枚」に踏み出しきれなかった本当の理由だった。4月のPOPは、形にはなった。けれど、もうひとつ別の言葉の出し方が必要だった。銅賞の通知が、そのスイッチを押した。
「自分の言葉が失礼に当たらないか」という不安は、文章を書くすべての人が一度は通る場所だ。AIに叩き台を出してもらうと、自分が”選びとる側”に立てる。ゼロから書く負担と、失礼にならないかの不安── その両方が同時に下がる。
🤖 3. ひろしま農園がAIでPOPを制作する過程
4月24日、ひろしま農園はClaudeにPOP作成を依頼した。注目してほしいのは、そのプロンプトの組み方だ。漠然とした「POPを作って」ではなく、農業AI通信の記事で紹介した”直売所POP特化”のプロンプト雛形を、自分の作物に合わせてカスタマイズした”3パターン同時生成”の型だった。
あなたは直売所の販売促進に詳しいコピーライターです。 以下の情報から、直売所におくPOPの文面を3パターン作ってください。 【作物】フルーツトマト 【特徴】食べた瞬間の甘味と、後から感じるうま味 【おすすめの食べ方】そのまま丸かじり 【伝えたい一言】あっという間になくなる 【出力形式】 各パターンに以下を含めてください。 1. キャッチコピー 2. 説明文(50字〜80字、こだわりと食べ方を自然に伝える) 【3パターン】 A:感情に訴える(おいしさ・幸せ系) B:事実で伝える C:問いかけ型(お客さんへの語りかけ) ※農家が手書きしても自然な、温かみのある言葉づかいで。 ※「!」の多用は避け、落ち着いたトーンで。



このプロンプトには、ひろしま農園が普段の販売で大事にしている価値観が、そのまま設計図として書き込まれている。
- 「農家が手書きしても自然な、温かみのある言葉づかい」── お客様との距離感を守るためのトーン指定
- 「!」の多用は避け、落ち着いたトーンで── ひろしま農園の27年がにじむ”声の高さ”の指定
- A/B/Cの3パターン同時生成── 1案で迷うのではなく、並べて比較して選ぶためのフォーマット指定
「POPを作って」と頼んだのではない。「自分が選びとれる材料を、3つの角度から並べて出してほしい」と頼んだのだ。
AIに「いい感じに作って」と頼むと、ふんわりした答えが返ってくる。逆に「3つの角度で並べて」「私が選びとれるように」と頼むと、AIは”素材屋”として最も機能する。販売文・SNS投稿・取引先への提案書── 同じ型はあらゆる場面で使い回せる。
✍️ 4. AIから出てきた言葉、選ばなかった言葉
Claudeから返ってきた3パターンには、ひろしま農園の味の手触りを違う角度で言語化した案が並んでいた。ここでは、味そのものを正面から語った2案を引いておく。
パターンB|事実で伝える
甘さが先で、うま味があとから来ます。
食べた瞬間に甘さがきて、後からうま味が広がります。むずかしいことは何もなく、そのまま丸ごとかじるのがいちばんです。
パターンC|問いかけ型
トマトって、こんなに甘かったでしょうか。
かじってみてください。最初に甘さ、そのあとじわりとうま味。包丁も塩もいりません。そのまま丸かじりがいちばんです。





