「無料でAIを教えます」は、
なぜ農家に届かなかったのか
── 第2期メディアアンバサダー募集の裏側と、農家と“共創”で進めるAIのいま
最初に、正直なことを書きます。
2025年、私は農家へ「無料でAI活用を教えます」と呼びかけました。けれど結果は、惨敗でした。手を挙げてくれる農家は、ほとんどいなかったのです。
あれから1年。いま私たちは、作目もAI経験も違う3名の農家と90日間を共に歩み、その実践を全国へ届けられるところまで来ました。そして本日、「第2期メディアアンバサダー」の募集を始めます。この記事では、その裏側── なぜ「教える」をやめ、「一緒にやる」に変えたのか──を、できるだけ正直に書きます。
1. 「無料でAIを教えます」── そして、惨敗した
生成AIが農業を変える。その確信はありました。だからこそ、いちばんシンプルな方法を選びました。「無料でやり方を教える」。コストの心配をなくせば、きっと農家は動いてくれる──そう信じていたのです。
結果は、見事に外れました。説明会に人は集まらず、個別の相談もほとんど入らない。「無料」という言葉は、むしろ警戒されることすらありました。良いものを、安く、丁寧に。そのつもりだったのに、現場はぴくりとも動かなかったのです。
「価値があるのに、なぜ伝わらないんだ」と、当時の私は現場のせいにしかけていました。間違っていたのは、農家ではなく、私の届け方だったのに。
2. 農家が止まるのは、「使い方」の手前だった
なぜ動かなかったのか。現場の声を聞き直して、ようやく分かりました。農家がAIで詰まるのは、「使い方」ではなく、その手前だったのです。
- そもそもデータが整理されていない
- 試すまとまった時間が取れない
- 一度やってみても、日々の業務に組み込む導線がない
- つまずいたとき、相談できる相手がいない
「やり方」を教えても、この手前の壁が残ったままでは、現場は一歩も進めません。必要だったのは“教材”ではなく、つまずいたその場に居て、一緒に考える伴走者でした。
3. 「教える」から「一緒にやる」へ ── メディアアンバサダーという実験
そこで舵を切りました。事例記事を増やすだけでなく、「現場で再現できる実装の型」を、農家と一緒につくる。そのための実験場が、「メディアアンバサダー」プログラムです。
やり方はシンプルです。手を挙げてくれた農家と90日間、月1回の面談で伴走し、現場課題からAI活用のテーマを一緒に設計する。そして、成功だけでなく試行錯誤やつまずきも、そのまま連載記事として発信する。きれいな成功談ではなく、過程を丸ごと共有することにしました。
「教える」は、上から下への一方通行。「一緒にやる」は、隣に立つ共創です。無料で教えても動かなかった現場が、伴走に変えた途端に動き出しました。
4. 第1期で見えたこと ── ひろしま農園の90日間
第1期では、2026年3月から90日間、3名の農家と伴走しました。なかでも象徴的だったのが、大分県宇佐市のひろしま農園です。全国トマト選手権で金賞を獲るほどの腕前。一方で栽培記録は3年日誌、経営は「どんぶり勘定」──デジタルとは縁のなかった夫婦でした。
| 領域 | 取り組み前 | 90日後 |
|---|---|---|
| 🌱 栽培 | 勘と経験。温度はその場対応 | 市販センサーで15分ごとに自動記録。積算温度を可視化し、毎日データを確認 |
| 🛒 販売 | 7年前のPOPを使い回し | 受賞翌日にAIでPOPを自作。値上げしても販売数は前年超え |
| 🧾 事務 | 確定申告は税理士に丸投げ、補助金はほぼ未活用 | レシートのAI読み取りで月次整理、補助金書類も自分で作成 |
| 👥 組織 | 作業指示はすべて口頭 | AIで作業マニュアルを作成し、新しい手伝いにも即対応 |
確かな「数字」を見て判断する意識へと変わったことが最大の変化です。これまで主人の頭の中にしかなかった勘や経験が、伴走支援のおかげで「15分おきの温湿度データ」として可視化されました。
「とにかく一度、AIを使ってみてほしい」と強く伝えたいです。「明治時代の着物から洋服に変わるくらいの大変革時代」が来ていると毎日感じています。超アナログな私でも、資料を見ながらできたのです。
── ひろしま農園(大分県宇佐市)
5. 分かったのは、AIは「答えを出す装置」ではないということ
3名の農家と歩いて、共通して見えたことがあります。それは、AIは農家の代わりに答えを出す存在ではないということ。AIは、農家が自分の現場を見つめ直し、次の一手を考えるための伴走者になれる──それが、90日間の結論でした。
高額な専用システムは要りません。スプレッドシート・市販センサー・生成AIという低コストな組み合わせでも、日々の記録と現場の気づきがあれば、経営・栽培・販売の判断は十分に支えられます。足りなかったのは技術ではなく、最初の一歩に付き添う人だったのです。
6. 第2期で、この実践知を全国へ
第2期メディアアンバサダーに参加いただく農家には、次の4つを提供します。
AI活用の壁打ち・テーマ設計
月1回程度のオンライン面談で、現場課題からAI活用テーマを一緒に設計します。
ツール選定・簡易実装支援
生成AI・スプレッドシート・市販センサーなど、低コストで始められる構成を提案します。
農園専用のAI活用手引書
実践資料・プロンプトを、90日後も使い続けられる「手引書」として蓄積・提供します。
記事化・セミナー登壇の機会
農業AI通信での連載や登壇で、あなたの取り組みを実践知として全国に発信します。
📋 第2期メディアアンバサダー 募集要項
| 対象 | AI活用に関心のある農家・農業法人(AI未経験者歓迎) |
|---|---|
| 募集数 | 3組(選考制) |
| 活動期間 | 3ヶ月を基本に設定 |
| 活動内容 | 月1回程度のオンライン面談、AI活用テーマの設定、記事・インタビュー協力、SNS発信協力 |
| 費用 | 無料 |
| 応募条件 | 実践過程の一部を公開できること、現場課題を持っていること、オンライン面談が可能なこと |
| 募集締切 | 2026年6月30日(火) |
※ 第1期に応募された方は対象外とさせていただきます。
※ 初代アンバサダーからの助言を踏まえ、「実践のための時間を確保できること」を推奨条件としています。
あなたの農園の「現場起点のAI」を、一緒に。
「まずは話を聞いてみたい」という段階でも歓迎です。
「無料で教えます」では動かなかった現場が、「一緒にやりましょう」で動き出しました。次の3組が、どんな現場課題を持ち込んでくれるのか──いまから楽しみにしています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
※ 本記事は株式会社農情人が運営する農家向けAIメディア『農業AI通信』の投稿です。掲載した農家の声は本人の許諾を得たヒアリング回答に基づきます。AI活用の効果には個人差があり、結果を保証するものではありません。

