🍓イチゴの新品種をAIで作る時代 ~高温に強いイチゴ品種はどこまで来た?~

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🍓イチゴの新品種をAIで作る時代

~高温に強いイチゴ品種はどこまで来た?~

夏の暑さが長引いて、秋の花芽分化がうまく揃わない。収穫の後半になると実がやわらかくなって、思うように出荷できない。イチゴを作っている方から、ここ数年こういう声をよく聞くようになりました。

品種を変えれば解決するのか。でも新しい品種は10年待ち——そう思っていた前提が、いま変わりつつあります。

この記事では、AIを使って新品種を2年で作っている国内のスタートアップの動きを、農家目線で整理します。技術の中身よりも、「その品種を作りませんか、という話が自分のところに来たとき、何を確認すればいいか」に重心を置きました。

📖 この記事でわかること

  1. 育種が「10年→2年」になった仕組み(AIがやっている部分と、やっていない部分)
  2. いま出願が公表されているイチゴ4品種の、作り分けかた
  3. 「品種を作りませんか」という話が来たときに、先に確認したい4点
  4. まだ決まっていないこと(品種登録の段階と、第三者評価が出る時期)
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🍓 2026年、イチゴの新品種が立て続けに出てきました

アグリテック・スタートアップの株式会社CULTA(カルタ・東京都小金井市)が開発したイチゴ3品種について、農林水産省から2026年8月4日付で品種登録出願が公表されました。2025年7月に公表された第1号品種と合わせて、4品種です。

同じ8月には、千葉県柏市(柏の葉)と茨城県つくば市に新しい研究開発拠点を開設することも発表されました。2026年9月から順次稼働する予定です。

拠点の中身を見ると、この動きの性格がよく分かります。つくば側には「栽培技術研究ハウス」と「育苗棟」が置かれます。育苗棟の役割は、公表資料によれば提携している生産者へ苗を安定して供給する体制をつくることです。

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先に結論です

いま起きているのは「暑さに強い新品種がひとつ出た」という話ではありません。新しい品種を続けて出し、それを農家に配って作ってもらう仕組みが、まとめて立ち上がりつつある——そう読むほうが実態に近いです。

🤖 AIは、イチゴの品種を「作って」いません

「AIで品種を作る」と聞くと、AIが遺伝子を書き換えているように感じるかもしれません。ここは、はっきり違います。

CULTAは公式サイトで、「ゲノム編集や遺伝子組換えを用いない『伝統的な交配育種』の高速化」と明記しています。やっていることは、昔からある掛け合わせです。掛け合わせそのものを速くした、という話ではありません。

では、AIは何をしているのか。掛け合わせてできたたくさんの子どものうち、どれを残すかを予測しています。遺伝子のデータと、実際に育ててみたときの姿かたちのデータをつないで、「この組み合わせなら、こういう実がなりそうだ」と見当をつける。新拠点のラボは、まさにこの予測モデルを高度化するための場所だと説明されています。

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育苗の選苗に置き換えると

苗をトレイいっぱいに育てて、最後まで見てから良いものを選ぶ——これが従来の育種です。時間はかかりますが確実です。

AIがやっているのは、植える前に「この苗は見込みが薄い」と当たりをつけて、残す数を先に絞ること。選ぶ精度が同じなら、見る本数が減ったぶんだけ早く終わります。

そして、もうひとつの高速化があります。こちらはAIではありません。

温度・光・湿度を細かく制御した人工光型の植物工場で、世代を早く回す「世代促進」です。屋外なら年に1回しか結果が出ない世代交代を、屋内なら待たずに次へ進められます。

人工光の下、白い棚に何段も重ねて栽培されているイチゴ。実がなっている段が上下に並んでいる
屋内の栽培研究環境。段を重ねて光と温度を管理することで、屋外なら年1回しか回せない世代交代を待たずに進められます。(画像提供:株式会社CULTA)
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10年が2年になった理由は、掛け算です

AIが縮めたのは「どれを残すか決める時間」。人工環境の施設が縮めたのは「次の世代までの時間」。

どちらか片方だけでは、10年は2年になりません。AIの話として読むと半分しか見えない、というのがこの事例のいちばん大事なところです。

🎨 4つの品種は「暑さに強い」だけで分かれていない

出願が公表されている4品種を並べてみます。特徴は、いずれも公表資料に書かれている内容です。

商品名 品種名 公表されている主な特徴
SAKURA DROPS CULTA-T3L 赤色。高温環境に耐性。果皮の強度が高く、長期収穫・長距離輸送に向く(2025年7月公表)
DARUMA DROPS CULTA-T16KLN 早生で果形の揃いがよい。果実表面の硬度が高く輸送性に優れる
YUKIMI DROPS CULTA-T22KLN 白色。既存の白イチゴ品種と比べて食味・収量に優れ、病害への耐性も持つ
NADESHIKO DROPS CULTA-T27KLN 桃色。香り・食味・収量を兼ね備え、春先の高温期にも品質を維持しやすい
濃い赤色のイチゴ「DARUMA DROPS」。果形が整い、つやのある表面

DARUMA DROPSCULTA-T16KLN

白色のイチゴ「YUKIMI DROPS」。果皮が白く、種の部分だけが淡い黄色

YUKIMI DROPSCULTA-T22KLN

桃色のイチゴ「NADESHIKO DROPS」。淡いピンク色で、赤い種が点在している

NADESHIKO DROPSCULTA-T27KLN

2026年8月に出願が公表された3品種。赤・白・桃色と果色が分かれています(第1号のSAKURA DROPSは2025年7月公表のため、この3点には含まれていません)。(画像提供:株式会社CULTA)

並べてみると、分かれ方が「暑さに強いかどうか」だけではないことが見えてきます。果色が赤・白・桃色と分かれ、早生かどうか、輸送に耐えるか、病気に強いか、といった軸でも分かれています。白色と桃色については、ギフトやプレミアム市場での需要を見据えて開発したと説明されています。

もうひとつ、背景として押さえておきたい話があります。CULTAは、日本で栽培されているイチゴ品種は遺伝的な似たもの同士が比較的多いと指摘しています。だから、遺伝的に遠い品種をあえて掛け合わせて、既存品種の延長線上にない特性を出そうとしている、と。

農家の側から見ると、これは品種の選び方が変わるという意味です。「暑さに強い品種が1つ出た」ではなく、自分の出口(直売か、量販か、ギフトか、輸出か)に合わせて品種を選ぶ——そういう選び方が現実に出てきます。

🤝 農家に来るのは品種の話ではなく、取引の話です

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

CULTAは公式サイトで、「生産者への独自品種の種・苗の販売」で収益を上げる事業構造ではありませんとはっきり書いています。つまり、苗を売って終わる会社ではない。

実際の流れはこうです。

  • CULTAが品種を持つ
  • 提携した生産者に、生産を委託する
  • 収穫されたものを、CULTAが原則として全量買い取る
  • CULTAがブランドをつくり、国内と海外へ販売する

この形が実際に試されているのが、愛知のJA西三河の事例です。同JAでは「章姫」など長く使ってきた品種で、夏の高温と夏の到来が早まったことによって生産品質や出荷量が安定しないという課題を抱えていました。果皮がやわらかいため輸出も難しかった、とされています。

そこでいちご部会の3名の生産者が、CULTA-T3Lの委託生産に参画しました。注目したいのは、実証している中身です。品種の効果だけでなく、「年間を通じた固定価格・全量買取」というモデルが生産者の収益向上に本当につながるのかまでを検証対象にしています。

⚠️

話が来たら、先に確認したい4点

  1. 買取価格:年間固定なのか。何を基準に決まり、いつ改定されるのか
  2. 「全量」の範囲:規格外や等級外はどう扱われるのか。全量買取の全量に含まれるのか
  3. 苗の供給:どこから、いくらで来るのか。翌年の苗はどうなるのか(自家増殖ができるのか)
  4. 契約の期間:何年契約か。途中でやめる場合の条件はどうなっているか

誤解のないように書いておくと、この形が悪いという話ではありません。相場に振り回されずに済むのは、経営として大きな安心です。

ただ、安定と引き換えに渡すものがあります。何を作るかの自由、売り先を自分で選ぶこと、そしてブランドを誰が持つか。この3つです。契約栽培には昔からある性質で、良いか悪いかではなく、条件を見て判断するものです。だからこそ、上の4点を先に聞いてほしいのです。

⚠️ まだ決まっていないことも、正直に書きます

景気のいい話ばかりではありません。いま分かっていないことを、3つ挙げます。

1つめ。「出願が公表された」は「品種登録が完了した」ではありません。

品種登録は、種苗法にもとづいて①出願 ②審査(特性調査など)③登録 という順に進みます。CULTA自身が、今回の3品種は「現在は①出願が完了した段階」であり、今後数年間にわたる審査を経て正式に登録される見通しだと説明しています。ニュースの見出しだけを読むと登録済みに見えてしまうので、ここは分けて理解しておきたいところです。

なお、種苗法は先に出願した人を優先する仕組み(先願主義)なので、登録が終わるまでの間も、他の人が同じ品種を先に登録してしまうことはありません。

2つめ。品質の数値は、いまのところ同社の試験値が中心です。

糖度や収量について公表されている数字は、基本的にCULTAの試験によるものです。第三者による比較評価は、これから出てきます。千葉大学との共同研究が2026年4月1日から2028年3月31日までの予定で進んでおり、環境適応性・花芽分化の特性・耐病性・収量性・果実品質について、既存品種との比較評価が行われています。

3つめ。自分の地域で作れるかは、まだ分かりません。

品種ごとの栽培技術を確立することは、2026年9月から稼働する新拠点の役割のひとつとして挙げられています。裏を返せば、地域ごとの適性はこれから固まっていく段階だということです。

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つまり、いま判断材料にできるのは

「この品種は自分の畑でどれだけ穫れるか」ではなく、「どういう条件で取引するか」のほうです。特性値が固まるのを待つより、契約条件を読むほうが先です。

まとめ

  • AIが縮めたのは「どれを残すか決める時間」。次の世代までの時間を縮めたのはAIではなく、人工環境の施設です。この2つの掛け算で10年が2年になりました
  • 使われているのは従来どおりの交配育種で、ゲノム編集・遺伝子組換えは使われていません
  • 出願が公表されたイチゴは4品種。赤・白・桃色と果色が分かれ、早生・輸送性・病害耐性・ギフト市場と、出口に合わせて作り分けられています
  • 農家のところに来るのは品種の話ではなく、委託生産+原則全量買取という取引の話です。買取価格・規格外の扱い・苗の供給・契約期間の4点を先に確認してください
  • 品種登録は出願が公表された段階で、第三者による比較評価は2028年3月まで続きます。特性値より取引条件で判断するのが、いまは現実的です

✅ 今日の5分アクション

  1. いま作っている品種の名前と、使い始めた年を書き出す
  2. 去年の収穫後期に、暑さで出荷できなかった量をざっくり思い出して1行メモする
  3. その2つをAIに貼って「この品種の弱点と、いま出ている新しい品種で代わりになりそうなものを教えて」と聞いてみる
  4. 余裕があれば、生産パートナーを募集しているページを開いて、条件の書き方を見ておく

よくある質問

Q. ゲノム編集や遺伝子組換えのイチゴなのでしょうか?

A. いいえ。CULTAは公式サイトで「ゲノム編集や遺伝子組換えを用いない『伝統的な交配育種』の高速化」と明記しています。

Q. 苗を買えば、自分で作れますか?

A. 現時点では苗を単体で売る形ではなく、提携生産者への委託生産という形です。同社自身も「種・苗の販売で収益を上げる事業構造ではない」と説明しています。

Q. もう品種登録されているのですか?

A. 出願が公表された段階です。今後、数年間の審査を経て正式に登録される見通しとされています。ただし先願主義なので、その間に他者が同じ品種を登録することはできません。

Q. 高温対策として、いますぐ使える品種ですか?

A. 地域ごとの栽培技術はこれから確立される段階です。すぐに切り替える話というより、「数年のうちに選択肢が増える」という前提で情報を集めておくのが現実的です。

📝 出典・参考

新しい品種の話は、どうしても「すごい技術が出ました」で終わりがちです。でも農家にとって本当に効いてくるのは、その品種をどういう条件で作ることになるか、のほうですよね。

技術が速くなったぶん、選択肢は確実に増えていきます。増えた選択肢を前にしたとき、慌てずに条件を読めるかどうかが分かれ目になります。

AIは、その比較を手伝ってくれる相棒です。契約書を読むのも、去年の記録と並べるのも、ひとりで抱えなくて大丈夫です。

※本記事は2026年9月3日時点の公開情報をもとに構成しています。編集部による実機検証・現地取材は行っていません。品種の特性値は開発企業の公表値であり、第三者による比較評価は継続中です。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

この記事は農家の皆さんのAI活用を応援するために作成しました。ご質問やご感想があれば、ぜひお寄せください。

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