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【米農家特集】一杯のごはんに未来を乗せて——「農業を、夢ある職場に」お米工房 村岡の挑戦(後編)

【後編】一杯のごはんに未来を乗せて——「農業を、夢ある職場に」お米工房 村岡の挑戦


村岡ファ-ムのお米(お米工房 村岡より引用)

価格決定権の欠如、機械化の恩恵が届きにくい小区画、そして人件費の重圧。逆風の中、村岡さんはどのように経営を安定させ、若者が胸を張って選べる職場を作ろうとしているのか。現場のリアルと、未来への種まきを描く。

「儲からなければ再投資はできない。新しい機械も買えないし、一緒に働く仲間も守れない。価格が上がって終わりじゃない。ここから、未来のために体制を強くしていくんです。」


経営のリアル①:中山間地の”二刀流”コスト

村岡さんが直面する経営課題の一つは人件費と機械費だ。彼の圃場は小区画が多く、1反(約1000㎡)程度の田んぼが点在するため、大型の自動操舵トラクターなどの効率が発揮しにくい。結果として大小の機械を揃える必要があり、経費が二重にかかる。限られた人数で点在圃場を回す時間コストも無視できない。ドローンは導入したが、超大型機械への投資は慎重に行わざるを得ない。

経営のリアル②:価格決定権という構造問題

もっと根深いのは、生産者が価格を決定できない構造だ。多くの米がJAを通じて市場へ出され、価格は収穫後に提示される。肥料や燃料の価格が上がっても、生産現場のコストをそのまま価格に反映することは難しい。こうした構造が、若手の参入意欲を削ぎ、後継者不足を加速させる一因になっている。

その一方で、近年の作柄不良などを背景に米価が上昇傾向にある年もあり、「ようやく採算が立ち始めた」と村岡さんは語る。しかしそれでも彼は楽観せず、単に価格の上昇を待つだけでなく、自ら販路を開拓して価値を消費者に直接届ける努力を続けている。

販路多様化と地域内連携

村岡さんはJA出荷のみに頼らず、地元スーパーへの直接販売、ふるさと納税枠への出品、自社ECサイトの運営など複数チャネルでの販売に力を入れる。これらは地道な取り組みだが、消費者に直接価値を伝える手段となり、価格決定の幅を広げる重要な手段だ。

同時に、地域内での連携も欠かせない。機械の共同利用、圃場の集約化、若手受け入れのための住宅・託児・研修制度、そして行政やJAとの協働による制度設計──地域を丸ごと”働きやすい職場”にする取り組みが求められる。

「食育」と「普通の会社」づくり

村岡さんは自らの田んぼを教育の場として開放し、子どもたちに田植えや稲刈りを体験させる。食育は消費者理解を深めると同時に、将来の担い手育成にもつながる。都会の子どもたちがごはんの原体験を持つことは、日本の食文化を支える重要な一歩だ。

さらに村岡さんが描くのは、農業が「普通の会社」として地域に並ぶことだ。土日休み、社会保険完備、明確な給与体系──そうした条件を現場で実現し、親が「農業を選べ」と胸を張って言えるようにする。これは彼が三児の父であるからこその切実な願いでもある。

経営と情熱のバランス

営利だけを追えば、もっと効率的で選択的な耕作が可能かもしれない。だが村岡さんは言う。企業は「儲かるところだけ」を選べるが、地域の農家はそうはいかない。田んぼに関係ない法面の草まで刈るのは、地域全体を守る責任があるからだ。儲けだけでなく、地域を守るという価値をどう成立させるか──その均衡が、彼の経営の核心だ。

インタンビューまとめ:一杯のごはんに未来を乗せて

村岡さんの言葉はシンプルだ。
「夢を持って挑戦してほしい」。
失敗は許される経験であり、挑戦の末に得られる学びは大きい。
相撲で鍛えた挑戦心と、地域を思う責任感で、彼は今日も田んぼに立つ。
私たちが口にする一杯のごはんには、土を耕し、地域を守り、未来を夢見る誰かの物語が詰まっている。

取材を終えて


オンラインでの取材の様子
オンラインでの取材の様子。右が村岡さん、左がインタビュワーのインターン生。

今回の取材を通じて、村岡さんの言葉の端々から感じられたのは、逆境をものともしない力強さと、次世代へ農業というバトンを繋ごうとする深い愛情でした。一杯のごはんに込められた物語を知ることで、私たちの食卓はもっと豊かになる。そんな確信を得た時間でした。
(インタビュワー:Metagri研究所 インターン生)

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